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探索27日目

赤い悪魔の爪が、容赦なく突き立てられた。
焼け付くような痛みに加え、生命が吸い取られていくのがわかった。


視界が赤から紫に染まり、ぼやけていく。
激痛と共に意識が薄れていく感覚。
昔何処かで、赤い悪魔にやられたような記憶があるが、記憶違いだろうか。
ごく稀に見る、新米の冒険者達を庇って殺される夢。
いや、そんな経験はなかったはずだ。きっとどこかの世界の私が―――


そこで記憶は途切れ、私は夢か思考か、よく分からない意識の波に乗ることになる。


消えていく郷の者達。
猛威を奮う Valkoinen Kuolema に冒され、血の海となった広場。あるいは雪原。
生き残った僅かな者も、私と他一名を残して死に、やがてその一名も死んだ。

郷はもうない。
誰もいない。

想いを胸に放浪し、妙なルートから来た招待状を握り締めて、私は彷徨う。
老いた身体は次第に刻を遡る。

一人雪原から荒野を歩く。
誰もいない。
耳の奧には常に吹雪の音が舞い、鼻孔の奧には雪と針葉樹の匂いが染みついている。



例外なく Valkoinen Kuolema に冒された私も、じきに終焉を迎える。
だからといって、死んだ者達のところに行けるだろうか。
答えは否だろう。
おそらく彼らは別の場所にいった。
懐中時計の中の夫は、ただの遺物だ。魂が存在するわけではない。


―――寂しくはないかい。

寂しくて嘆くのは、もう大分前におしまいにしたよ。


―――心細くはないかい。

もう慣れた。周りに何人いようと、独りだよ。



島に来てから、目的の一致というだけで同行している者はいる。
だが、それはあくまで同行者だ。
私の出自を知った者もいるが、冒険者の不文律(という名の怠惰)
『人にはそれぞれ事情があるので触らぬよう』を心得ている。

進んでも戻っても立ち止まっても、私の周囲には誰もいない。
誰もいない。



見えないブリザードが、ただ遺跡の中を駆け抜けていく。

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