忍者ブログ

≪ 前の記事

次の記事 ≫

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

comments

探索2日目

彼らの本拠地は、丘の上の修道院跡にあった。
彼らとは言うが、私も含まれる。すっかり忘れてしまいそうになる。
元は宗教施設だったそれを、改築して使っているようで、ここが彼ら―――もとい我々が地上に戻ったときに寝起きする場所だった。

どうやら前の住民が居たようで、私がよく知らない、この島に変化が起こる以前の冒険者が使っていたようだった。
いくつかの部屋は厳重に鍵がかけられており、管理は淡い金髪の娘が行っていた(どうにも作りもののような風体が気になる娘だ)。
常にデッキブラシを手放さず、ここの管理に執心している。何人かとは知り合いのようだが、前の住民と何か繋がりがあったのだろうか。また地上へ戻ったときにでも聞いてみるとしよう。

変化が起こる前から島にいる冒険者というのは少なくないようで、時折やってきては、誰それは居ますか、そういった類の事を聞いていた。
私も数度聞かれたが、分かるわけがない。
ここの住民はどこかへ消えてしまったのだろうか。そうすると厳重に鍵のかけられた部屋は、行方不明の冒険者のものということになる。
まあ、そのうちの誰かが戻ってきたとしても、呆れるくらいに部屋は空いているのだが。

私は最上階、時計塔の真横の部屋を選び、当分の塒とさせてもらった。
幸いなことに時計は壊れているし、朝晩やかましいこともないだろう。毎晩寝るわけでもなし。
丘陵地帯全体を見渡せるような場所を選んでしまったのは、狙撃手時代の癖だった。



ほどなくして冒険へと出向く編成は決まった。
リーダーなどは不在のようで、随分と決定に時間がかかっていたようだった(若い恋人同士のような二名は除外する。あの娘は随分と勢い込んで編成を申し出ていた)。
私にとってよくは知らぬ者同士で組むのはあたりまえなので、決められた編成には特に異論はなかった。

遺跡の規模からして、スリーマンセルを三隊というのがここの慣習のようだった。
私が以前いたところは基本的に六名だったが、大抵は最適編成数というものには意味がある。
これは戦闘よりも、探索に重きを置く組み方だ。

私の隊のメンバーは、最初に声をかけてきた獣人と、呪術を使うという若い商人だった。
どう見ても獣人の方は穏やかな輩には見えなかった。体色が灼熱色ともなれば尚更で、種族柄表情の読めない外見や厳めしい杖など、どう見ても堅気には見えない。

それは商人にも言えることで、こちらは暴力的な風を思わせる出で立ちではなかったが、どこか調子のよい喋りに商人特有の値踏みするような視線、じゃらじゃらと身につけているのは商売ものなのか術に使うのか、よくわからない装飾品だ。

有り体に言ってしまえば二人とも「胡散臭い」を絵に描いて額に入れて壁にかけたようであった。他の隊との雰囲気が余りにも違っていて、さすがに吹き出しかけた。
だが、かえって有り難い。胡散臭いのにはこちらも自覚があるし、何と言っても場慣れしていそうなところが助かる。
少々のことでいちいち驚かなさそうな「らしさ」がある。きっとこの二人なら、元居た冒険地なら100日は生き残るはずだ。



暫くの付き合いになるだろう、獣人術士のイグニス、呪術師商人のジャンニ。

暫く。そうだ、暫く。

Valkoinen Kuolema がやってくるまでの、暫くの時間。



古びた金の懐中時計を取りだし、蓋を開ける。
いつも通り、短針と長針は時を刻み続ける。
ミニッツリピーターも作動している。
再び蓋を閉め、懐にしまい込む。
懐の中でも時を刻む音がする。

私は(そして私たちは)小さく初冬の空気を吸い込み、吐き出すと、遺跡の内部へと続く階段を降り始めた。
PR

0 comments

Comment