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探索8日目

スノーグローブが、ゆらゆらと模造の雪を降らせている。
決して人に襲いかかることのない、優しく煌めく雪を。
掌上のごく狭い世界、球形の雪景色の向こうには、宵闇の平原に灯る温かな灯がぽつりぽつり見えていた。


故郷の冬は、真夜中になるまで日が落ちなかった。
日が変わる少し前まで、橙色の夕日が雪の上に落ちているのが普通だった。
しかしこの島の宵闇は、とてつもなく早い時間にやってくる。
夕食より早くなるなどはザラだった。
そんな宵闇の中、平原に暖色の灯がちらちらと点在するのが伺えた。

この地帯にはことの他冒険者が密集している。
おそらくは目的は同じ、この先に居るどこぞの軍の小隊、その調査・討伐。
今夜は聖夜祭ということで、探索の小休止を選択する者が多いのだろう。
煌々と灯る橙のひかりはそれだった。

同行者たちも幾人か明かりを点してそういった雰囲気のものが多かったが、当然のごとく私はそんな気にはなれない。
ジャンニが『皆でうまいもんでも食ってりゃ自然とそういう気分になりますよ』などと言っていて、思わず殴りたくなったが流石に自重した。味覚の無いものにとって、宴席などは拷問以外のなにものでもない。
かくして自然と一人で、すこし離れた場所での酒宴となった。



私とて、昔は家族が居た。
同じ一族の、遠縁である夫。半ば決められた結婚ではあったが、それなりに愛情はあったように記憶している。
長男に次男、長女。みなそれぞれに傭兵・鍛冶・錬金術へと道を選択していった。
一族の特性ゆえに皆で集えるのは年に数度だったが、その分喜びも大きかった。

今では全て失われた光景。
家族の誰も、一族も残っては居ない。
全て Valkoinen Kuolema が奪い去った。
私が最後の一人だった。

孤独は今更感じない。
あるのは焦燥と、緩やかな恐怖感。
それが今、聖夜祭の灯を見つめる私の全てだ。


来るがいい、Valkoinen Kuolema。白い死神、大いなる厄災よ。
この島のマナと違い、たった一人残った私にだけ降りる凶星よ。
いや、いっそマナも私を飲み込むといい。
ヒトの持てる力全てを、残りの時間を全て使うがいい。
それこそが私の望みだ。



 …… …… ……



私の何かを見透かすように、スノーグローブが瞬いた。
森で偶然拾った小箱に詰まった、そのひとつ。
それはミニチュアの寒気を舞い上がらせた。
遠くで聞こえる聖歌を、私は別世界の出来事のように聞いていた。
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